
リーマンショックに端を発し、世界経済不安による景気低迷で先行きが不透明になり、今日の日経新聞によると、総務省発表の9月の有効求人倍率は、4年ぶりの低水準で0.84倍に低下するなど、雇用情勢が悪化しています。
来年の新規採用を控える企業も増えつつあるようで、「内定を取り消す企業が増加」との報道もあります。
実際に私どものクライアント企業からも、10月に入り、『採用内定取消』の相談が出始めています。
企業も不安を抱えての決断ですが、来春卒業する学生の皆さんも「これから社会人」という夢と希望を抱いていた中での思わぬ事態に、大きなショックです。
また、入社直前になって採用内定を取り消されると、事実上新しい就職先を確保するのは困難となり、その被害は計り知れないものとなります。
そこで、今日は『採用内定の取消』について、判例を通じてご説明したいと思います。
行政解釈上、『採用内定』とは、『 解約権を留保した労働契約』であり、これにより、原則として労働契約は成立します。
『解約権を留保した労働契約』とは、採用内定通知書または誓約書に記載されている採用内定取り消し事由が生じたときには解約できる旨の合意が含まれている労働契約のことをいいます。
一般的には、次のような場合、内定取消が正当化されています。
1. 単位不足で卒業できないとき
2. 健康を著しく害したとき
3. 反社会的な行為(窃盗・傷害・暴行・放火・器物破損等)があったとき
会社が、採用内定を通知後に、採用の確定的意思を表示(たとえば、入社誓約書、入社日・提出書類などの詳細通知、入社前研修など)をした後の『内定の取消』は、「労働契約の解約」となりますので、原則として「解雇」に該当し、合理的と認められる正当な理由がなければ、無効となります。
◆採用内定の法律的性質
採用内定を取り消すには、客観的に見て合理的な理由が必要であり、一方的に取り消すことは認められません。
例えば、「会社の業績が悪くなった」などという理由は、多くの場合、内定取消の合理性は認められないでしょう。
会社は積極的な採用活動を行ったわけであり、このような不況や会社の経営上の問題は、使用者側の責任によるものと考えられるからです。
また、「他にもっと良い人材が見つかった」などというのも合理的な理由とはなりません。
採用内定は、採用内定通知書に記載された一定の事由が生じた場合の解約権を留保した労働契約が成立したとみられる場合が多く、このように労働契約が成立したと考えられる場合は、採用の内定を取り消すには、解雇と同様の配慮が必要となります。
仮に合理的理由があり内定取消ができるとしても、労働基準法第20条に定める解雇予告規定が適用され、30日前までに予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当といいます。)を支払う必要があります。
◆内定取消にあたって経営者側の留意点
1.採用内定の取り消しは、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できる事由がある
場合に限られる。
2.採用内定の取り消しに対しては、損害賠償請求と従業員たる地位の確認の請求訴訟が
できる。
3.経営上の理由で自宅待機をさせる場合には、休業手当の支払いが必要である。
◆採用内定取消に関する最高裁判決
採用内定の取消が認められるのは、内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる
(昭54.7.20 大日本印刷事件)。
◆行政解釈
会社の採用通知が労働契約そのものを完成させる使用者の意思表示であるか、又は労働契約締結の予約であるかは、「具体的個々の事情、特に採用通知の文言、当該会社の労働契約、就業規則等の採用手続に関する定め、及び従来の取扱慣例による採用通知の意味等について総合的に判断して決定すべきものである」としながらも、次のように解されるとしています。
1. 採用通知に赴任の日が指定されている場合には、一般にはその採用通知が
発せられた日に労働契約は成立したと認められる要素が強い。
(ただし、従来の慣例その他を勘案して決定されるべき)
2. 雇用契約締結の日を明示して採用通知がなされた場合は、一般には労働契約は
その日に有効に成立しているものと解されるから、その日以降における採用取消通知は
本人の赴任前(現実に就労するまでの期間)であっても解雇の意思表示であると解され、
従って労働基準法第20条(解雇予告)の適用がある。
(昭27.5.27 基監発第15号)
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